幻の開発道路・道道増毛当別線

はじめに

  • 本稿では参考文献の関係上、増毛町御料・起点-雨竜町道暑寒別線交点を中心に記述します。
  • 資料によって、トンネル・橋梁の延長に相違がみられます。本稿で参照した文献は末尾に列挙しました。
  • ルートの全体は図1(グーグルマップ)をご参照ください。また地形図にルートを加筆し、図3~図5の3枚に分けて掲載しました。

ルートの全容

図1について
  • ズームアウトは初期画面より1段階まで。
  • 地形表示では、一定以上拡大すると等高線が表示されなくなります。
  • 初期画面では、A地点・H地点・N地点・T地点のみマーカーが表示されます。すべて表示すると煩雑になるのを避けるためです。
  • 赤色の線は、ルート全体を表示した図面数葉を参考に忠実な表現を心がけました。ただし、精密・正確性は一切保証いたしません。おおよその参考程度に捉えてください。図2の線や、図3~図5の地形図に加筆した線も同様です。

【拡大表示】 起点付近雨竜町国領新十津川町北部終点付近

【マーカー】 すべて消すすべて表示初期画面へ

図1・道道増毛当別線の計画ルート図(赤色の線)。紫色の線は、雨竜沼湿原入口に通じる雨竜町道暑寒別線を示す。マーカーをクリックすると、該当地点の情報を表示します。

N地点を境に、北が暑寒道路で南が徳富道路である。中でも起点から 4.4km を恵岱道路と呼び、留萌開発建設部の担当であった。残りは札幌開発建設部の担当である。

実際に建設され、残っている遺構は恵岱別大橋の橋脚・橋台だけである。工事用道路の形跡も残っている。

暑寒道路(恵岱道路)

起点四態

指定区間の起点「増毛郡増毛町大字舎熊村字信砂御料1706番」は暫定だったらしく、当該地番から始まるルートは計画されていない。

下表は、増毛稲田線交点から恵岱別大橋にかけてのルートを決めた告示である。

1994年11月15日建設省告示第2200号(道路の区域の決定)
区間敷地の幅員延長
増毛郡増毛町大字舎熊村字信砂1703番から雨竜郡雨竜町国有林深川営林署33林班い小班まで10.00m ~ 87.50m0.886km

「字信砂1703番」は1706番の北東に隣接する地番で、告示図面を見ると1706番も通る。当初は恵岱別大橋手前で増毛稲田線と立体交差する計画を、平面交差に変更している。より分水嶺に近い1706番から分岐すると、勾配と線形に無理が生じたのかもしれない。

では1703番が起点だったかといえば、違うのである。

起点であれば 0.00m となる延長(キロ程)が、いきなり 300.00m から始まっている。前頁で、資料によって延長に 400m の誤差があると書いた一因だろう。

告示区間の実測線と地質調査用に作成された『作業行為位置図』に描かれたルートを、図1▲に示した

黒い線との交点から1703番までが、0.00m ~ 300.00m と推定される。黒い線は増毛稲田線の線形改良構想である。憶測の域を出ないが、スキー場計画に合わせたものと考えられる。むろん、事業化に至らなかった。ちなみに、交点の地番は1702番である。

さらに『実測線調査業務平面図』を見ると、ここまで触れた線形と異なって、増毛稲田線がカーブする地点から直進している。図2にルートを示した▼。距離が長くなる分、線形はより緩やかになる。『実測線調査業務平面図』は1996年度か1997年度の資料とされる。工事中断で区域変更はされなかったが、おそらくルートの最終形であろう。なお、交点の地番は1698番2である。

「1706番」「1703番」「1702番」「1698番2」と4とおりの起点が検討された事実は興味深い。工事が本格化していたら、起点の地番は修正されたに違いない。

恵岱別大橋

形式

トラス橋やアーチ橋との比較の末、ラーメン橋が採用され、1991年度に予備設計が実施された。材質はプレストレストコンクリート(PC)である。

以下の点で有利とされた。

  • 下部工規模を小さくできる。
  • 付属物が少なく、維持管理がしやすい。
  • 架設場所は橋脚が高い(長い)ため、荷重が小さくなる。

橋梁諸元

予備設計の段階では増毛稲田線と立体交差する構造だったのを、本設計では平面交差に改めた。そのため、橋長等に変更が生じている。橋脚は低めに抑えられ、橋長短縮により1基減った。予備設計の立体交差は、5.3m ほどの高さを確保していた。

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恵岱別大橋のデータ
予備設計本設計
橋長373.000m橋長333.000m
A-1橋台高9.000m
P-1橋脚高16.000mA-1橋台高15.000m
P-2橋脚高32.000mP-1橋脚高31.000m
P-3橋脚高50.700mP-2橋脚高42.200m
P-4橋脚高48.000mP-3橋脚高41.500m
P-5橋脚高58.500mP-4橋脚高53.500m
P-6橋脚高24.700mP-5橋脚高17.200m
P-7橋脚高24.500mP-6橋脚高19.000m
P-8橋脚高15.000mP-7橋脚高13.000m
A-2橋台高13.500mA-2橋台高11.500m
幅員8.000m幅員8.200m
支間割96.300m+195.000m+78.500m支間割56.300m+195.000m+78.300m
型式3径間連続PCラーメン箱桁
表注-高さが太字の橋脚・橋台は建設済み。
写真1(YAMAさん撮影)。道道増毛稲田線より、恵岱別大橋の橋脚を望む。
写真1。恵岱別大橋の橋台・橋脚は、冬から早春にかけて見ることができる。樹木の葉が生い茂ると、視界は遮られる。写真1~3は2009年4月8日、YAMAさん撮影。撮影地 雨竜郡北竜町字竜西
写真2(YAMAさん撮影)。恵岱別大橋の橋脚と橋台。
写真2。手前から奥へ、P-5・P-6・P-7の橋脚とA-2橋台。増毛当別線が建設された証である。撮影地 雨竜郡北竜町字竜西
写真3(YAMAさん撮影)。増毛当別線と増毛稲田線の交差予定地。
写真3。増毛当別線と増毛稲田線は、写真の直線上で平面交差する計画だった。恵岱別大橋で立体交差する構想もあった。撮影地 雨竜郡北竜町字竜西

工事用道路

現場周辺に、恵岱別川右岸へ通じる道はない。資材運搬・建設の足掛かりとして、工事用道路が建設された。本線がAルート、仮橋2号橋で左岸に渡る支線がA-2ルートである。結果として、A-2ルートは本来の役割を果たせなかった。仮橋は上部の構造が3径間と共通で、橋脚を2本設置したのも同じである。ただし、上流に架かる2号橋の方が橋脚高は長い。

仮橋は工事中断に伴い撤去されたと思われるが、その時期は不明である。

工事用道路仮橋のデータ
1号橋2号橋
橋長64.080m橋長64.080m
橋台高A-1・A-23.500m橋台高A-1・A-23.500m
P-1橋脚高8.100mP-1橋脚高13.100m
P-2橋脚高8.600mP-2橋脚高9.900m
幅員4.000m幅員4.000m
支間割21.500m+19.500m+21.500m
図2について
  • ズームアウトは初期画面より2段階まで。

図2。赤色が実測線調査による増毛当別線のルート、紫色が恵岱別大橋、橙色が工事用道路を示す。マーカーをクリックすると、該当地点の情報を表示します。 初期画面へ

国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より。
写真A・2004年9月15日撮影。工事用道路の痕跡が残っている。国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より引用。解像度 400dpi の写真をトリミング。縮尺は3万分1。

恵岱別大橋を過ぎると5パーセントの上り勾配にかかり、曲線半径が順に 250m・225m・300m のカーブと、4か所のボックスカルバートを設ける切り通しのルートで、続いて延長 300m の恵岱別トンネルを曲線半径 300m のカーブ上に掘削する計画だった。実測線調査はここまでで、その先に暑寒別橋(橋長 88.0m)を架設し、暑寒別トンネル(延長 990m)の途中から暑寒別天売焼尻国定公園の区域に入るルートを想定していた。

暑寒道路(札幌開発建設部管轄)

雨竜町国領

5万分の1地形図「国領」(昭和62年修正)を約0.9倍に縮小。
図3・暑寒道路のルート、第1工区~第3工区まで。5万分1地形図「国領」(1987年修正)を約0.9倍に縮小し、赤色(恵岱別トンネル・暑寒別トンネルは緑色)の線を加筆。

暑寒別トンネルを抜ける付近までが留萌開発建設部の担当である。さらに 1,180m 進んだ地点から、雨竜町道暑寒別線交点までは1993年11月に測量を実施した。該当の告示が下表である。

1994年5月25日建設省告示第1425号(道路の区域の決定)
区間敷地の幅員延長
雨竜郡雨竜町字上オシラリカ原野道有林滝川経営区52林班10小班から同町字国領297番7まで10.40m ~ 113.00m1.523km

告示された当時、区間内の橋梁は蓑島橋だけであった。その後、町道交点近くに 100m 級の橋梁が追加されている。

蓑島橋は起点からおよそ 6km の地点にあり、蓑島沢川に架かることから名付けられたのだろう。橋の付近は、3.75パーセントの勾配で下っている。

告示区間のカーブの曲線半径は順に、650m・250m・300m・1,500m となっている。

蓑島橋のデータ
橋長85.000m
A-1橋台高10.000m
P-1橋脚高16.500m
P-2橋脚高16.000m
A-2橋台高8.000m
幅員9.200m
支間割26.000m+32.000m+26.000m

新十津川町吉野まで

5万分の1地形図「国領」(昭和62年修正)と「吉野」(昭和57年修正)を約0.9倍に縮小。
図4・暑寒道路のルート、第4工区と第5工区。5万分1地形図「国領」(1987年修正)と「吉野」(1982年修正)を約0.9倍に縮小し、赤色(徳富トンネルは緑色)の線を加筆。

暑寒別線交点より南は、計画だけで終わった区間である。

交点を過ぎて間もなく、国領大橋(橋長 265m)でペンケペタン川を渡り、尾白利加川左岸の一段高い所を上流に向かって進む。

2km 余りで左へカーブし、尾白利加橋(橋長 344m)を渡って新十津川町に入り、最大の構造物・徳富トンネル(延長 2,294m)で増毛山地東部を貫く。トンネルの途中までが国定公園の区域内である。

徳富トンネルを抜けると奥和歌大橋(橋長 273m)を渡り、進路を南南西から西へ変えて内浦橋(橋長 102m)を渡り、再び南へ進んでワッカ林道交点に至る計画だった。

徳富道路

徳富道路は事業がほとんど進捗しなかった。

富士形山の麓を東から南へ回り、徳富川を越えて南幌加貯水池の東へ回り、延長 600m のトンネルを抜けて当別町に入り、一般国道451号交点に至るルートを予定していた。橋梁は4か所で、橋名は徳富1号橋から順に数字が増えて、最後は徳富4号橋となっている。徳富川に架かる徳富3号橋の橋長は 100m 級のようだ。

もし一般国道451号青山トンネルを改築する時が来て、別線で整備することになったら、終点部分のルートに陽の目が当たるかもしれない。

5万分の1地形図「吉野」(昭和57年修正)を約0.9倍に縮小。
図5・徳富道路のルート。5万分1地形図「吉野」(1982年修正)を約0.9倍に縮小し、赤色の線を加筆。
構造物延長の参考とした文献
  • 恵岱別大橋
    • 『恵岱別大橋予備設計図』(留萌開発建設部・1991年度)
    • 『恵岱別大橋一般図』(留萌開発建設部・1995年度)
  • 蓑島橋
    • 『蓑島橋一般図』(北海道開発局札幌開発建設部)
  • 徳富トンネル・新十津川町-当別町のトンネル
    • 『一般道道増毛当別線』(北海道開発局。2004年3月)
  • 上記以外
    • 『一般道道増毛当別線暑寒道路1~3工区空撮図』(北海道開発局留萌開発建設部作成)
  • 『一般道道増毛当別線』に構造物の名称と延長が図示されているが、解像度が著しく低いため、判読は困難である。
参考文献(上記以外)
  • 「暑寒別天売焼尻国定公園の公園計画の変更に関する意⾒の募集について」(環境省。2004年9月10日)
  • 「暑寒別天売焼尻国定公園の公園区域及び公園計画の変更に関するパブリック・コメントの実施結果について」(環境省。2004年度)
  • 『一般道道増毛当別線暑寒道路環境影響調査報告書の概要』(北海道開発局札幌開発建設部。1992年7月)
  • 『一般道道増毛当別線恵岱道路パンフレット』(北海道開発局留萌開発建設部。1990年)
  • 『一般道道増毛当別線事業計画図』(北海道開発局留萌開発建設部)
  • 『一般道道増毛当別線計画線概要図』(北海道開発局留萌開発建設部)
  • 『一般道道増毛当別線工事用道路平面図』(北海道開発局留萌開発建設部。1995年度)
  • 『一般道道増毛当別線実測線調査業務平面図』(北海道開発局留萌開発建設部)
  • 寺島一男「北海道におけるリゾート開発とスキー場」(『北海道の自然』第28号。北海道自然保護協会。1989年8月)
  • 『北海道新聞』